「どのような視点でクリニックを選べば良いのか」の前に、クリニック選びにおいて信用しすぎない方がよい”落とし穴”となりがちな情報についても知っておきましょう。
女性からだ情報局が行った生殖医療医や不妊治療経験者のへのヒアリングの中から、意見の多かった”落とし穴”になりがちな3つの情報をピックアップしています。中には、こんな情報を参考にしすぎて、クリニック選びに失敗したというカップルもいました。同じ間違いのないように、経験者の声に耳を傾けてみましょう。
1. 治療成績
1つめは、クリニックがWEBサイトやセミナーで公開している「治療成績」です。
治療成績を公開し、説明してくれているクリニックはとても信用できる、そう思い込んではいないでしょうか…?
もちろんすべての治療成績や、その公開に関する姿勢を参考にしてはいけないということではありません。ただし、信用しすぎることは禁物です。特に「妊娠率」のような割合に関するデータには2つの点から注意が必要ですので、それを踏まえた上で参考にするようにしましょう。
①同じ条件下での成績であるか
クリニックが公開する治療成績を見るときに、まず気をつけなくてはいけないのは「どのような条件における治療成績なのか」という点です。特に他のクリニックの成績と比較するとき、分子や分母は同じでしょうか?
そのクリニックが「妊娠率」という言葉を使用しているとき、分子は「着床数」「出産件数」「出産人数」のどれでしょうか。そして、分母は「総患者数」「体外受精治療周期数」「採卵周期数」「採卵個数」「胚盤胞到達数」「移植回数」「移植個数」のどれでしょうか。もしかすると、これ以外のスコアが使われている場合もあるかもしれません。
確率を導き出すのに使われる数字がこれほど違っている上に、クリニックの場所や診察時間、患者の平均年齢など諸条件が同じでない限り、「妊娠率」といった割合の治療成績は、必ずしもそのクリニックの医療技術の高さを示すスコアとなることはなく、あくまで参考に過ぎないのです。
②優れたクリニックほど、条件は悪くなりやすい
先ほども触れたように、不妊治療カップルの多くは最初からクリニックを吟味することが少なく、成果が出ない期間を経てクリニック探しに本腰を入れるようになり、様々な情報収集を経て優れたクリニックに辿り着きます。それまでに数年を費やし、妊活や不妊治療の開始時点よりも年齢は高くなっています。
また、開始時点で高齢であるケースや、難しい不妊のケースなどでは、最初に診察を行ったクリニックがより医療技術の高いクリニックを紹介する場合もあります。つまり、その医療技術が高いとされるクリニックであればあるほど、相対的に「妊娠が難しい」患者さんが集う傾向にあるのです。
このような場合、「治療成績が悪い」とは必ずしも「医療技術が低い」を意味しません。その医療技術が高いからこそ信頼され、難しい患者さんがどんどん紹介されてきたり、どんなに難しいケースでも諦めずに治療を続けたからこそ、治療成績のスコアが悪くなってしまうこともあります。
このような2つの点から、クリニック選びにおいて「治療成績」特に割合のスコアを主な判断基準にすることを、私たちはお勧めしていません。
私たち『女性からだ情報局』が各クリニックの情報ページに治療成績の割合を載せたり、ランキング化していないのは、このような理由があるからなのです。
2. SNSや検索サイトのクチコミ
2つめは、「誰でも書き込めるクチコミ」です。
近くに不妊治療の経験者がいない場合や、まだあまり他人に相談していない段階では、ネット上のクチコミ(SNSやブログ、レビューなど)を参考にしようとする方も多いのではないでしょうか。実はこれらにも注意が必要です。
どんな点に注意すべきなのか、以下3つを見てみましょう。
①個人の感想であり、極端になりやすい
まず注意しておきたいのは、「極端な感想だけが露出しやすい」ということです。
これを読んでいる方のうち、他人にはあまり共有できない自分自身のプライベートな話や、過去に訪れたクリニックに関するレビューをインターネット上に書き込んだり、定期的にブログを発信したりした経験のある方はどれくらいいるでしょうか。もちろん今や珍しいことではありませんが、それでも多数派ではないことは確かでしょう。
同じように、クリニックのクチコミ情報を見るとき、そのクリニックがこれまでに診察してきた患者数と、レビューの数を比べてみてください。そこに載っている感想は、ほんの一部の人のものに過ぎません。インターネット上に「感想」として記載されている時点で、すでにそこには一定の意見の偏りが発生しています。
そして、どんな場合においても、人がインターネット上にレビューを発信するとき、それはわざわさ文章を書くほどに大きく気持ちが動いたときに他なりません。不妊治療で言えば、「無事にお子さんを授かることができ、治療を卒業したとき」や「治療を諦めることになったとき」「不快な思いをしたとき」などが多い傾向にあります。こういったタイミングで放たれる感想は、良いものも・悪いものも、やはり極端になりやすいのです。
②根拠のない情報が含まれている
次に注意しておきたいのは、感想は個人のものですから「根拠のない情報が含まれている可能性がある」ということです。
そもそもクチコミを記載している人が専門医でない場合、そこに記載されている医療情報はどのくらい信用できるでしょうか。正しい情報が無いとは限りませんが、やはりやみくもに信じてしまうのはとてもリスクが高いと言えます。
③ステマの場合がある
最後に注意しておきたいのは、「マーケティング業者による情報発信(ステマ)の場合がある」ということです。
SNSでも、検索サイトのレビューでも、業者にお金を支払うことで良いクチコミを大量投下して悪いクチコミを隠して高い点数を獲得したり、卒業した患者さんに報酬を支払ってレビューを書かせたりするクリニックが存在します。それらを売りにした専門業者がセールスを行なっているからです。残念なことに、中には自分のクリニックのクチコミを良くするだけでなく、ライバルのクリニックのクチコミを荒らすケースもあるようです。
女性からだ情報局でも、医療への取り組みやクリニックの様子も素晴らしく、同業の医師や業界内からも高い評価を得ているのに、レビューや点数がひどく荒らされているクリニックを複数確認しています。あなたがクリニック選びに参考にしようとしたそのクチコミは、患者さんが書いたものでさえない可能性もあるのです。
3. WEBサイトや周辺サービスの充実度
3つめは、「WEBサイトや周辺サービスの充実度」です。
妊活や不妊治療に限らず、多くの方がクリニックを選ぶとき、まずアクセスするのは公式ウェブサイトではないでしょうか。とても美しく整理されたものから、そもそも公式ウェブサイトが存在しない医療機関までさまざまです。また、そこには予約・診察・治療に関連した色々なサービスが紹介されている場合もあります。
これらウェブサイトや周辺サービスの充実度は、一見するとそのクリニックの医療水準の高さを物語っているように感じます。特にビジネスの世界で広報やプロモーション、ブランディングに携わることが多い方ほど、これらの充実度がクリニックの一次的な評価に直結することが多いようです。
ただし、この「ウェブサイトや周辺サービスの充実度」は、必ずしもクリニックの医療水準の高さを示すとは言えず、判断基準とするのに向かない場合があります。
以下2点に気をつけて見てみましょう。
①集客を優先しない名医も多い
1つめは、「集客(マーケティング)を優先しすぎている場合がある」ということです。
それぞれのクリニックは院長である医師によって運営されていますが、医療現場の医師たちは「診断・治療」「予約から支払いまでのオペレーション」「チームスタッフや患者さんとのコミュニケーション」など、日常的にたくさんの役割をこなしています。さらに定期的に学会への出席や論文の執筆、新しい知識や技術の習得など、目まぐるしい研鑽の日々を送っている人もいます。
そのため、クリニックの経営状態が重大な危機でない限り、基本的には「来院した患者へのよりよい治療(目の前の患者さんへの医療を通じた貢献)」を優先し、ウェブサイト等を通じた「新しい患者の獲得(ビジネス的な拡大)」に熱心でない医師も存在します。彼らは、ウェブサイトや周辺サービスに費やす時間やお金を、現場でのよりよい医療の追求に縣けたいと考えています。そのため、腕のいい医師であっても、ウェブサイトや周辺サービスに無頓着なケースもあるのです。
逆に言えば、ウェブサイトや周辺サービスが過度に充実しすぎていたり、リスティングなどの広告を数多く見かける場合、そのクリニックは集客を最優先しているのかもしれません。
②外注に任せきりである
複数のクリニックのウェブサイトを見たとき、「全く関係のないクリニックなのに、ウェブサイトの構造が同じ場合がある」ことに気づく人もいるかもしれません。診療科にかかわらず、国内のかなりの数のクリニックで採用されているウェブサイトのテンプレートもあります。
このような場合、テンプレートを制作・展開している事業者には、医療機関のウェブサイトを作り込むノウハウが蓄積するとともに、クリニック側はウェブサイトの製作にかける時間や費用をおさえることができるなど、双方にメリットがあります。
一方で、ウェブサイトを制作する事業者が専門的であり、クリニックが費用や時間を節約できるということは、クリニックの関与度がどんどん低くなることを意味します。
美しく整理されたウェブサイトに掲載されたテキストやビジュアルなどのコンテンツのうち、どれくらいの割合がそのクリニックから生まれてきたものでしょうか。美しく心地よいウェブサイトや周辺サービスを通じて評価しているのは、そのほとんどが、実はコピーライターやデザイナーの腕に過ぎないのかもしれません。