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わかっていても、感情がそれを受け止めきれない。あの頃の壮絶な想い〜鈴木夫妻の不妊治療【特別編】〜

2020年、2年間の不妊治療を経て待望のお子さんを授かった鈴木夫妻。不妊治療を通じて、また現在、不妊治療や家族に関する想いとはどう向き合っているのだろうか。改めて2年間を通じて感じたことを振り返ってもらった。前編後編を読む)


(※こちらの記事にはセンシティブな心情描写が含まれます。閲覧にご注意ください。)

 

※この記事の記載内容は個人の経験や記憶に基づいた意見であり、女性からだ情報局がその正確性を保証するものではありません。
※登場する人名はいずれも仮名です。

 

はじめて両親に伝えたとき…不妊の”カミングアウト”

– 不妊治療は2人だけでなく、家族との関わりが難しい部分もあると思います。ご両親とはどのように接されていましたか?

鈴木マリコさん(奥さん)
不妊外来を案内されたタイミングで実の親に、夫の両親には不妊外来に少し通い始めてからカミングアウトしました。
もともと実の親とも非常に仲がよく、義両親との間にも信頼があったので伝えることができたのだと思います。自主的に伝えたのは、やっぱり親っていつ孫ができるのか気にしてると思ったんです。実際、私の父は「早く子供を作れ」とちょこちょこ言っていた。
でもどちらにもカミングアウトして本当によかったと思っています。近くに住む両親は、通院の送り迎えをしてくれたり、不安に駆られている私の通院に母が付き添ってくれたりと、本当に支えてくれました。
送り迎えの車の中で、父からは何度か「まだできないのか?」と、お手本のような無神経発言をされたこともありました。そんな時でも「父にこんなことを言われて傷ついた」と母に告げ口すると、母が父を叱ってくれた。それから父も、直接は言わなくなりました。心では思っていたとは思うのですが、配慮を学んでくれたのだと思います。

 

– これだけ多くの方が不妊に悩まれている現代でも「カミングアウト」という表現を使われているのが印象的です。旦那さんのご両親はどのような反応でしたか?

鈴木マリコさん(奥さん)
夫の両親はもともと過干渉するタイプではなかったのですが、反応は私の予想と少し違っていました。
「なかなか妊娠しなくて不妊外来に通っています」と告げたら、「あらそうなの?」と。特に義父はしっかり自分の世界を持っている人なのですが、「僕たちは君たちの子どものことはどうでもいいから、好きなようにすればいい。」と。

ん?どうでもいい?−実はこの言葉に、一瞬突き放されたように感じました。でも、少し経ってそれが義父の優しさだったんだなと理解しています。
それが義父が意図した優しさだったのかどうか、それは今でもわかりません。それに、今更改めて聞くことでもないのかなと思っています。けど、どうでもいいって、そういうこと。何も負担に感じることはない、私にとっては本当にありがたい言葉でした。

 

家族の眩しすぎる期待が、重荷に感じるときもあった

– ご家族が治療を支えてくれたというのは、本当に心強いですね。

鈴木マリコさん(奥さん)
いまこの瞬間にも、家族すら味方になってくれずに不妊治療をしている人もいるかもしれない。確かにそのような人たちに比べたら、私は非常に恵まれた環境で不妊治療に望めていたのだと思います。家族は理解してくれて、支えてくれていた。
それでも、その反面、やっぱり不妊を経験していない人ならではの希望が、眩しすぎて痛い時もありました。家族が味方であってもふとした瞬間辛いと感じる。そんな時もあるんです。
治療に付き添ってくれる母も姉もとても協力的だったけど、この人達も“不妊”を経験しているわけじゃない。
母は私を励ますつもりで「友達の息子が結婚して子どもが産まれて、ほらこんな大きくなったのよ〜」って写真を見せてくれました。「だからきっとあなたも授かるから!」って。
励ましてくれているのは分かってはいたけど、でもそれは私にとってはつらいことでもありました。だって私はまだ子どもを授かれていないから。子どもを産んだ他の人の話は「どんどん追い抜かれていく」という焦りばかりを大きくしました。そのことを姉に相談したら「あんたに子どもできるって信じてるから、そういう話をするんだよ。私も応援してるから!」と言われました。
この頃の感情の揺れ動きを振り返ると、何が言いたいかって自分でもよく分からないんです。結論「家族に感謝」ってことなんだと思いますけど。不妊治療しているときって、とにかく色々な複雑な感情が絡んで、いま思い返しても厄介で、自分でも整理できていないんです。

 

幸せを願うけれど、もう連絡することのない治療仲間

– ご家族の他に、不妊治療を通じて支え合った友人などはいますか?

鈴木マリコさん(奥さん)
いなくはない、という感じかもしれません。
不妊治療をしている人どうしで、「つらい思いや悩みを言い合いたいから、少し話しましょうよ」みたいなこと、よくあるんです。不妊治療は待ち時間が長いことも多かったり、セミナーなんかもあるので、自然とそういうコミュニケーションが生まれることがあります。でもこれ、注意が必要だと私は思っています。
仲良しな2人の1人が妊娠すると、もう1人は私は本当につらい思いをするんです。仲良しだからこそつらい、地獄の苦しみです。私はどちらも経験しましたが、軽はずみに馴れ合うんじゃなかったと思い知らされました。私が妊娠した際には、まだ妊娠できなかった友人とは、自分から何も言わずになんとなくフェードアウトするしかありませんでした。。。
待合室でたまたま話すようになり、長い待ち時間に様々な会話をして、通院のあとにも何度かお茶をして、“友達になった”と思っていたあの彼女は今どうしているのか。数年経った今でも気がかりですが、やっぱり連絡できないままになっています。

 

– 同じ場所で同じ悩みを抱えているのに、結果が違ってしまうと難しいですね。

鈴木マリコさん(奥さん)
頭ではわかっていても、気持ちとしてどうしても受け入れられないことってあるんです。例えば私は、子どもを連れて不妊治療に来る人のことが心情的になかなか許せなかった。
まだ1人も子どもを授かれていない人と、2人目以降を望む人とでは、明らかに切迫感が違うと感じていました。「もうすでに1人子どもがいるんだから、わざわざここに連れて来ないでよ!見せびらかさないでよ!」という気持ちです。
クリニックによっては1人目妊活と2人目以降の患者さんを、曜日や時間帯、フロアや待合室を分けたりするところもありますよね。でもそれだって100%別にできているわけではない。連れてこられた子どもは幼いことがほとんどなので、ところ構わず遊び、ふとした瞬間にこっちに来たりもする。
今なら笑顔で優しく接することができますが、当時の自分にはそんな余裕はなかったですね。プイッと横を向いて子どもを見ないようにして耐えていることもありました。
結局、何が悪いのかなんて今でも分かりませんが、あのときの精神状態だと、そういった人達は自分を傷つける敵として見てしまっていたんでです。

 

不妊治療を経験した今だから、わかること・できること

– 不妊治療を経て、ご自身で変わったと思われることはありますか?

鈴木マリコさん(奥さん)
「不妊治療」って経験していない世間の人からはひとまとめだけど、やっぱり経験したからこそわかることがたくさんあって、いま治療中の人たちに配慮しようと思えるようになったことは変化かなと思います。
私は、今も2人目が欲しいと思うことがあります。でも、幼い子どもを連れてまであの待合室に行くかと問われると、それはできない。どんなに2人目が欲しくても。
主人に頑張って時間をあけてもらって子どもを預けて行くなり、1日預かってくれる託児所を頑張って予約して子どもを預けて行くなり、きっとそうすると思います。あの待合室には、あの頃の私がいるから。
もちろん世の中には様々な家庭があって、「旦那が仕事が忙しすぎて預かれる時間がない」とか「託児所の予約とれない」とか「両親に預けたいが遠くて預けられない」とか、仕方なく子どもを連れて不妊治療外来に来ている人もいると思うんです。もちろんあの頃の私も、頭ではそれを理解していたと思うんです。それでも、それを消化できるだけの余裕が無かった。
それは、1人目から不妊治療をしなければならなかった人と、2人目以降の不妊治療をしなければならなかった人との、決定的な「差」みたいなものだったのかもしれないと感じています。不妊治療をしている人の中でも、レベルが違うんだと思うんです。
同じ治療をしていても、状況や結果は理不尽なほど残酷な違いを生んでいる。人はどうしても同じ空間にいると相手と自分を比べてしまうから、不妊治療というざっくりとしたくくりで「仲間だね」なんて間違っても言っちゃいけないんです。

 

子どもを願う不妊の人たちを、私たちはどう支えられるか

– 少子化の反面、不妊治療大国の日本で、社会ができることはありますか?

鈴木マリコさん(奥さん)
早めに妊活を始めたとしても、様々な理由で不妊になってしまい、治療をしている人たちはいると思います。とにかく治療が大変だということは、もっと知られて欲しい。現在はさらに、「コロナ対策」と「不妊治療」を両立しないといけないと思うので、いま不妊治療をしている人の大変さは計り知れないです。
やっとのことで妊娠できても、とんでもない苦労をして授かったお腹の子どもを、コロナやその他のウィルスや病気からどう守っていくのか。考えただけでもストレスが半端なく大きいのではないかと思います。
もちろん、自然妊娠した人も、長年の不妊治療の末に妊娠した人も「子どもを守っていきたい」「無事に産みたい」と願う気持ちは同じですし、その気持ちは比べるものではありません。ただ、不妊治療は子どもを授かるまでに大きな精神的・体力的な負担を経験している分、どうしても気負ってしまっているところがあるんです。
今言えるのは、やっぱり不妊治療をしている人を政府がバックアップしていただけるのなら、「感情にどう寄り添うか」も内容に盛り込むことを考えて欲しい。
私の不妊治療は幸いにも2年ちょっとで済みましたが、2年間でも本当につらかったんです。世の中には、もっと長期にわたって不妊治療をしている方もいます。そのために海外に渡航してまで治療する方もいます。とにかくものすごい労力なんです。

 

– ネガティブな感情には人は目を背けがちですが、取り組んでいくべき課題の1つですね。

鈴木マリコさん(奥さん)
それでも私たちは、結果が出ただけ恵まれているんです。
お金も含めて色んな負担と治療結果の兼ね合いの中で、妊娠を諦める人たちもいます。その心情はどうケアしていけるのだろうか、と考えることが時折あります。
以前、母がこんな新聞記事を見せてくれたんです。それは、お子さんのいない60歳くらいになるAさんに、妹の娘さん(姪)の結婚式の招待状が届いたという内容でした。その招待状にAさんは涙を流しました。
それは、姪が幸せへの一歩を踏み出したことへの感動の涙ではありません。自分には、ウェディングドレスを着た娘をみることすら叶わなかった、子どもを授かり晴れの姿をみるまで育てることもできなかった哀しみだったのだそうです。
その記事を読んだとき、私はなんだか言葉に言い表せない、とてつもない気持ちになりました。不妊治療を諦めたあとでも、ずっと肩に重くのしかかる現実があるのだと。すっぱり諦めたつもりだったのに、気持ちの整理がつかない自分が、老後にまた出てくるのではないかと。60歳になってなお、人はこのような気持ちを抱いてしまうものなのだと。
もちろん不妊治療は大変です。経験者ですから、私はそれを語ることができます。

でも、不妊に悩んだけれど結果的に子どもを授かれなかった方の人生と現実は、もっと過酷なのかもしれない。
多くの人がここに目を向け、何かが変わっていくことを祈っています。

 

 

不妊治療とは、新しい家族のメンバーを願う治療だ。結果はどうあれ、不妊治療をするカップルは家族について考える機会が、より多くなるだろう。そして、多くの人にとって人生の基盤となる「家族」が揺れ動くことは、時に理屈では割り切れない感情を生み出す。鈴木マリコさんの不妊治療体験談は、まさにそんな壮絶な想いが垣間見えるものだった。
一部を除けば、どんな医療行為も経験しないに越したことはない。でも、どんなに健康管理を行っても、不妊症の患者が絶えることはない。そして不妊治療とは、自身の健康のためではなく、次の命のために取り組む治療でもある。
生殖医療専門医(※多くは産婦人科専門医)の中で、その診療科を選択した理由に「お産に立ち会ったこと」を挙げる医師は少なくない。その“尊い瞬間”を目指して「子どもを授かりたい」という想いを胸に、カップルは不妊治療という大きな負担に挑んでいく。
1人1人の経験者の言葉は、数字や理屈の奥に感情が渦巻いていること、そしてその負担の大きさを教えてくれる。もちろん人それぞれに感じかたは異なるだろう。鈴木マリコさんの経験は、1つの切り口に過ぎないことを記載しておきたい。
ただし、今この瞬間も不妊治療に挑む患者と、それに取り組む医療従事者が存在しているのだ。編集部は体験記のインタビューを通じて、いつもその事実を再確認する。私たちのこの取り組みが、そんな命を生み出す現場の理解の一助となれば幸いである。

 

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