不妊治療の最初のステップとして知られる「タイミング法」。自分で基礎体温を測り、性交のタイミング見計らうやり方と「何が違うんだろう?」と疑問に感じたことはありませんか。
結論から言えば、クリニックでのタイミング法は、医学的知見と検査結果をもとに、最も妊娠しやすい日時をより正確に明らかにできるというもの。
今回の記事では、クリニックで実施する「タイミング法」の基本情報として、治療の概要や費用、気になる成功確率などについて梅ヶ丘産婦人科院長の辰巳賢一医師に聞きました。
不妊治療でよく耳にする「タイミング法」の基本情報
不妊治療のタイミング法について教えてください
タイミング法とは、「最も妊娠しやすいタイミングで性交を行う」方法のことです。(*1)
自身で基礎体温や排卵検査薬を用いてタイミングを見計らう方法とは異なり、不妊治療では「妊娠しやすい最適なタイミング」を医師が指導をしてくれます。
そのために、排卵予定日より前にクリニックを受診し、経膣超音波検査で卵巣内の卵胞という卵子が入っている袋の大きさを測定します。
一般的に卵胞の直径が20㎜ほどになると排卵するといわれており、この計測値と尿中の排卵を促すホルモン(LH)の値から、排卵日を予測します。
排卵日の5日前から排卵の半日後までに性交があると妊娠の可能性がありますが、排卵日の2日前から排卵日までが特に妊娠しやすいといわれています。
タイミング法はもっとも自然な妊娠に近く、男女ともに負担の少ない不妊治療方法です。自己流のタイミング法でもある程度の排卵日を予測できますが、実際には自分の思っていた排卵日と異なるケースも少なくありません。特に月経不順などで月経周期に乱れがある場合、個人で正確に排卵日を把握することは難しいでしょう。
自分たちなりのタイミング法でなかなか妊娠に至らないのであれば、その時点で一度クリニックを受診してみることをおすすめします。
どんなカップルがタイミング法の対象となるのでしょうか?
タイミング法は、体内での自然妊娠が可能なカップルが適用対象となります。
また、タイミング法が適用できる条件は不妊原因が女性にあるのか男性にあるのかによって以下のように異なります。(*2)
■女性側に不妊原因がある場合:両側の卵管に異常がないこと
■男性側に不妊原因がある場合:精液検査の結果が正常であること
タイミング法で妊娠することが難しいと判断された場合、人工授精や体外受精など、他の不妊治療法へのステップアップが必要なことも少なくありません。
「タイミング法」の実施内容
タイミング法の流れについて教えてください
一般的なタイミング法の流れは次の通りです。(*3)
1.これまでの月経周期や、過去の排卵ペースを基に排卵時期を予測する
まず基礎体温表や月経が来た日について確認を行い、排卵が起こりそうな時期を予測します。
黄体(排卵後に卵巣に形成され、黄体ホルモンを分泌する)の寿命は約14日といわれており、月経開始の14日前頃が排卵日と考えられます。自分のいつもの月経周期から、自分の排卵日の予想をします。
2.経腟超音波検査で卵胞の大きさを確認する
予想排卵日の2,3日前にクリニックを受診し、経腟超音波検査によって卵胞の大きさを測定します。
自然周期であれば卵胞の直径が12㎜程度になったあと、1日あたり約1.5㎜のペースで成長すると言われています。 そして、卵胞が18~22㎜程度の大きさになると排卵が起こります。
なお、排卵期には頸管粘液(おりもの)の性状も変わるため、それらも排卵期が近づいたかどうかの指標となります。頸管粘液は子宮内に細菌などが侵入するのを防ぐため、排卵時期以外は子宮の入り口を塞いでいます。しかし、排卵期が近づくと精子を受け入れやすくするために透明でよく伸びる性状に変わるといった性質をあります。
3.尿のLH検査や頸管粘液検査などと総合的に判断してタイミング指導を行う
経腟超音波検査によって卵胞の大きさを確認し、排卵が近づいていると判断されると尿中LH検査を行います。黄体形成ホルモン(LH)は、一般的に排卵10~12時間前に分泌がピークとなるため、排卵予測の指標として用いられます。なお、このタイミングで医師から性交渉を行う時期についてアドバイスが得られるでしょう。
そして、性交渉後に必要があれば後日超音波検査を行い、排卵していたかどうかを判断します。この時に、頸管粘液の中に精液が入っているかどうかを調べる検査(ヒューナーテスト)を行うこともあります。
排卵があり、タイミングがあっていれば妊娠しているかの確認待ちとなります。
タイミング法をとった3週間後、つまり妊娠5週に子宮内に胎嚢(=胎児の原型)が確認されれば臨床妊娠となります。また、妊娠6週になると赤ちゃんの心臓の動きを超音波で確認できます。
タイミング法で排卵誘発剤を使うことがあると聞いたことがあります
卵胞が育ちにくかったり、排卵が起こりにくかったりする「排卵障害」がある場合には、医師の判断のもと、排卵誘発剤を使うことがあります。排卵誘発剤を使用することで、卵胞の発育・排卵を促す効果が期待できます。
ただし、排卵誘発剤を使うと多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群(OHSS)といった副作用が生じる恐れがあるため、注意深く経過を観察する必要があります。(*4)
タイミング法で男性が気をつけることはどんなことでしょうか
男性は精子をよりよい状態に保つことを意識すると良いでしょう。
精子はとてもデリケートで、男性の体調やストレスに影響を受けやすいとされます。(*5)
精子の数や運動率も一定ではなく、日によって大きく変動します。
また、喫煙や大量のアルコール摂取は、精子形成や射精に悪い影響を与えると考えられています。不妊治療をきっかけに、禁煙・節酒を心がけ、健康的な生活を目指していくことも重要です。
「タイミング法」の費用
タイミング法はどのくらいの費用がかかるのでしょうか
タイミング法にかかる費用は、通院や検査の回数、薬処方の有無などによって個人個人で異なります。ただ、一般的に保険適用の範囲内であれば1回2,000~3,000円程度となるケースがほとんどです。
とはいえ、排卵日を予測するための経腟超音波検査や、排卵を促すための排卵誘発剤の処方は、1か月間に何回も行うと保険適用外となります。その場合、1~2万円ほど支払うこともあるでしょう。
「タイミング法」の妊娠率
タイミング法はどのくらいの回数おこなうのでしょうか?
タイミング法を行った場合、すぐに妊娠できる人もいれば、1年ほど続けたとしても妊娠できない人もいます。
35歳未満なら6回程度、36-39歳なら3回程度、40歳以上なら1-2回タイミング法を試みても妊娠に至らない場合、治療方針を変更することを視野に入れた方がよいでしょう。(*6)
タイミング法で妊娠に至らなかった場合、どうすればいいのでしょうか
タイミング法を続けても妊娠できなかった場合、不妊治療のステップアップを検討することをおすすめします。選択肢としては、
人工授精や生殖補助医療(体外受精・顕微授精)が挙げられます。
まず人工授精(AIH)ですが、タイミング法で妊娠しない場合、精子に問題がある場合、頸管粘液が不良の場合、性交ができない場合などに行われます。女性の排卵日に男性の精液から、パーコール法やミグリス法を用いて活発に運動している良好な精子を回収します。これをカテーテルで女性の子宮内に注入することで妊娠を試みます。注入時に使うカテーテルはとても細いため、女性が痛みを感じることはほとんどありません。(*7)
また、人工授精を35歳未満では6回、35歳以上では3回行なっても妊娠しなかった場合は、生殖補助医療(体外受精・顕微授精)へのステップアップを検討する必要があります。
生殖補助医療については「体外受精」と「顕微授精」にわけられます。
いずれも膣から卵巣に針を刺して卵子を取り出した後(採卵)、体外で精子と受精させ、培養します。そして後日、受精卵(胚)は子宮内へと返されます(胚移植)。顕微授精は精液所見が不良の場合や、体外受精では受精できない受精障害の場合に行われます。(*7)
なお、採卵の際は、成熟した卵子を数個~20個程度を取るために、排卵誘発剤を一週間前後使用する調節卵巣刺激という治療を行います。人によっては卵巣過剰刺激症候群といった副作用が生じることもあります。
ここまでステップアップについてお伝えしましたが、不妊治療においては患者さんの状況に合わせた治療選択が欠かせません。
男性・女性を問わず加齢が進むと卵子や精子の数が少なくなるほか、その質も低下してしまいます。そのため、年齢が高くなればなるほど体外受精や顕微授精を行ったとしても妊娠・出産が困難になるといえるでしょう。
加齢によってそうした事態に陥ってしまうことを避けるためにも、早期にクリニックを受診し、適切な治療法を選択することが大切です。