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【先天性と後天性】不妊になりやすい男性とは?その原因と症状について

「妊活」というキーワードが世間に広く知られるようになり、女性だけでなく男女一緒に不妊治療に取り組むケースが増えています。とはいえ男性の不妊症と聞いても、具体的にどんな原因や症状があるのかわからない人も多いですよね。

そこで今回は男性不妊の主な原因と症状や、不妊になりやすい男性の特徴、日々のライフスタイルで気をつけたいことについて、杉山産婦人科新宿診療部長、順天堂大学産婦人科学講座非常勤講師の黒田恵司医師に聞きました。

男性不妊の主な原因と症状

 

男性不妊の主な原因と症状について

 

男性の不妊症の原因として、主に3つが考えられます。

1.精液の中に含まれる精子の数が少ない、もしくは活発に運動する精子の割合(運動率)が低下している。

2.勃起ができず挿入できない、勃起はするが射精がうまくいかない。

3.精子は作られているが、精子の通り道(精路)のどこかがふさがっており、精液中に精子がない。

 

また、医学用語では、
1を「造精機能障害(精子を作る過程に問題がある)」、2を「性機能障害」、3を「精路通過障害」と呼んでいます。(*1)

 

 

造精機能障害の症状について

 

まず「造精機能障害」ですが、先に述べたように、精液の中に含まれる精子の数が少ない、もしくは活発に運動する精子の割合(運動率)が低下していることを指します。

精子は本来、精巣(睾丸)の中で作られたあと、精巣上体という場所を通過することで、精子は運動能力を得ます。その結果、精子が卵子のもとにたどり着きやすくなります。(*2)

 

しかし精子が作られたり、成熟したりするときに異常があると、受精が困難になります。場合によっては精子の数が少なくなるほか、精子の動きが悪くなる、奇形率が上がるといった要因を引き起こし、授精する力そのものが低下してしまいます。

 

造成機能障害が起こる理由として、精巣の上にある血管(静脈)が太くなる精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)があげられます。これによって精子が血液によって温められすぎてしまい、精子に異常が出ると考えられています。また、精策静脈瘤を手術によって改善することで、精液の状態が回復することもあります

 

 

そのほかにも、造精機能障害の原因として以下のようなものがあります。

 

・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症

・精子をつくるホルモンの分泌量が少なくなった結果、作られる精子の量が減少する病気

・精巣炎

・精巣の手術後やおたふく風邪におこりうる精巣の炎症気

・遺伝子異常

・遺伝子に異常があり、精子がつくられない、またはほとんどつくられなくなる病気(例:クラインフェルター症候群)(*3)

 

しかし、造精機能障害が起こる原因の多くはまだわかっていません。そのため、一般的には漢方薬やビタミン剤、抗酸化剤等を用いた治療を行うことがあります。

 

性機能障害の症状や原因

 

性機能障害」は勃起ができず挿入できない、勃起はするが射精がうまくいかない事を指します。代表的なものに勃起障害(ED)射精障害が挙げられます。

勃起障害(ED)は、動脈硬化や糖尿病などの身体の病気が影響することが原因(神経性、血管性)ですが、緊張や不安などによって勃起しないといった精神的な状態も原因になることがあります(心因性)。

 

つまり、不妊治療の一環として行うタイミング法(排卵日2日前に性交渉を行う不妊治療法)そのものが性行為のプレッシャーとなり、EDや膣内射精障害に繋がっている可能性もあるのです。

 

そして射精障害には逆行性射精や無射精、早漏・遅漏などが挙げられます。

 

逆行性射精

精液が体外ではなく、自身の膀胱(ぼうこう)に放出される

無射精

精液が出なくなる

早漏・遅漏

膣内に挿入してから射精するまでの時間が短すぎる/長すぎるために、満足のいく射精ができない。

またこれらの原因も、身体的なもの、精神的なもの、薬によるものなど、さまざまあると考えられます。

 

 

精路通過障害の症状や原因

 

「精路通過障害」の代表的なものに閉塞性無精子症があります。

これは精子そのものは問題なく作られているにも関わらず、精子の通り道(精路)がなんらかの原因でふさがっているため、精子が出てこられない状態のことをいいます。

 

閉塞性無精子症の原因として、精子を運ぶ管(精管)が生まれつきない(先天性両側精管欠損)、生殖器やその周囲の炎症により精路がふさがっている(精巣上体炎後の炎症性閉塞・鼠経ヘルニア手術後の炎症)ことがあげれれます。

 

閉塞性無精子症については、ふさがった精路を手術でつないだり、精巣内の精子を回収して顕微授精をしたりすることで、解決する場合もあります。(*3)

 

 

男性不妊の検査の方法

 

男性不妊の検査としては、主に2つの方法があります。(*4)

 

① 精液検査

② 泌尿器科的な検査(採血・エコー検査等)

このうち精液検査は受診した男性のほとんどが受ける検査です。泌尿器科的な検査についても診察やエコー検査、採血など短時間で簡単にできることから、それほど負担に感じることはないでしょう。

なお、「精液検査」では主に次の項目を調べます。

・精液量

・精子濃度

・運動率

・運動の質

・精子の形態

・感染の有無

 精液は2~7日の禁欲期間をとったあと、病院にて用手法(マスターベーション)で採取します。

万が一結果が思わしくなかったとしても男性の精液性状は日によって変化することから、再度検査をして問題ないと結論づけられることもあります。

 

 

 

先天性と後天性がある男性不妊の原因

 

男性不妊の先天性と後天性原因とは 

 

男性不妊には先天性と後天性があります。(*5)

先天性の原因として、遺伝などにより生まれつき生殖機能に異常があることや、成長する中で性機能が低下してしまうといったことが挙げられます。

 

対する後天性としては、ストレスや喫煙、肥満やアルコールといった生活習慣が原因で引き起こされるものや、精巣などの病気や障害によるものもあります。

 

不妊症と聞くと女性側に問題があるとイメージする方も多いかも知れませんが、実際のところはそうではありません。そのため、少しでも「あれ?おかしいな?」と感じることがあれば男女双方が病院で検査を受けることが大切です。

 

 

不妊になりやすい男性の傾向

 

不妊になりやすい男性の傾向・体質

 

精索静脈瘤のある方のなかには、睾丸(こうがん)や陰嚢(いんのう)の大きさが右と左で異なることがあります。また、陰嚢の表面にでこぼこが見られる場合も、精索静脈瘤が発生している可能性があります。

また、子どもの頃から現在に至るまでに、以下の病気や手術の経験がある人も、造精機能障害が発生するリスクがあります。

 

・停留精巣の手術を受けたことがある人

・鼠経ヘルニアの手術を受けたことがある人

・たふく風邪にかかった後、睾丸が腫れ上がった人

・高熱が続いた後、睾丸付近に痛みを感じたことがある人

・抗がん剤治療や放射線治療を受けたことがある人

 

子どもの頃に停留精巣の手術を受けた場合、精液の状態が悪化しているケースがときおり見受けられます。少しでも気になることがあれば病院を受診するようにしましょう。

また、子どもの頃に鼡径ヘルニア(脱腸)の手術を受けた人も男性不妊症になることがあります。これは、精子の通り道である鼡径管周囲を手術で触れた結果、精子がうまく通れなくなることがあるからです。

 

おたふく風邪後に睾丸が腫れ上がった経験のある人は、睾丸の炎症によって精子を作る力が衰えている可能性があります。またおたふく風邪に限らず、高熱が続いた人、とくに睾丸付近に痛みを感じたことがある人も睾丸の働きが悪くなっていることがあります。

同様に、生殖器の炎症(副睾丸炎・前立腺炎など)にかかった経験がある人も、精子が通りにくくなっている可能性が考えられるでしょう。

 

そしてこれまでに抗がん剤治療や放射線治療を受けたことのある人は、睾丸の状態が悪くなっている可能性があります。抗がん剤を使用した場合、治療が終わってから長期間経過した場合であっても、精子がうまく造れなくなってしまうことがあります。

  

不妊になりやすい生活習慣にも注意

 

肥満や喫煙、睡眠不足、不規則な食生活といった生活習慣の乱れにも注意が必要です。そうした不健康な生活が長く続けば続くほど、精液の状態に影響する恐れが高まります。

いずれにせよ、なにか思うことがあれば専門クリニックや泌尿器科で検査を受けることをおすすめします。

 

 

注意しておきたいライフスタイル

 

男性不妊にならないために、日頃から注意すること

 

男性不妊にならないために日頃の生活の中で気をつけたいことをいくつか取り上げてみました。

 

・たばこを吸わない(禁煙する)

・ぴっちりとした下着は避ける(トランクスにする)

・膝上でPCを長時間使用しない

・サウナや長風呂を避ける

 

まずたばこですが、男性側の喫煙は精子の状態を悪化させ、精子数や運動率の低下をもたらすといわれています。またそれだけでなく、受精能力の低下や精子のDNAの損傷率の増加、勃起不全の増加など、男性不妊症に大きく影響を及ぼすといえるでしょう。特にDNAが傷ついた精子は受精しにくいだけでなく、妊娠しても流産しやすいといったリスクも持ち合わせています。

 

また、精巣の精子を作る造精機能はとても熱に弱いです。睾丸がぶらぶらしているのも、熱を上げないように涼しくするためといえます。そのため、睾丸をあたためる行為は避けた方が無難です。

具体的には風通しの悪いぴっちりとした下着を避ける、膝上でPCを長時間使用しない、サウナや長風呂を避けるといったことが挙げられます。できるかぎり、普段から股間を涼しく保てるように心がけましょう。

  

気になる人はクリニックへ検査に行こう

 

不妊症と聞いて、「女性に原因があるのでは?」と思う人も多いかもしれませんが、不妊の原因は女性だけでなく男女双方にあります

また、女性が妊娠・出産できる年齢には制限があることから、不妊治療は時間との勝負です。男性が検査を先延ばしにしている間にも、女性は年齢を重ねてしまいます。

 

加齢によって卵子だけでなく精子も老化すると言われており、通院渋りがゆくゆく大きな後悔を招くことになるかもしれません。

そのため女性だけに原因があると考えるのではなく、ふたりで一緒に検査をスタートさせることがまずは大切です。

 

女性が受ける不妊検査と異なり、男性不妊の検査は痛みも負担も伴いません。そのため、パートナーとよく話し合った上でなるべく早めにクリニックを受診するようにしましょう。

 

男性の不妊検査は女性と同じ医療機関で受けられるほか、男性不妊を扱う泌尿器科でも検査ができます。

 

 

参考文献

監修者

黒田 恵司(くろだ けいじ)

杉山産婦人科 丸の内 院長
順天堂大学産婦人科学講座 非常勤講師

専攻領域:不妊症、不育症、内視鏡手術(腹腔鏡、子宮鏡) 専門医:日本産科婦人科学会 産科婦人科専門医、日本生殖医学会 生殖医専門医 認定医:日本産科婦人科内視鏡学会 産科婦人科内視鏡技術認定医、日本不育症学会 不育症認定医 著書: 『データから考える不妊症・不育症治療』メジカルビュー社、『Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage』Springer社など

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