東京都港区。日本の経済活動の中心地の1つであるこの地域に、今まさに本格的な体外受精に挑もうとする女性がいる。高橋ノゾミさん(仮名)37歳、税理士。事実婚のパートナーとは交際4年になる。
実は、高橋さんは不妊治療を終えた訳ではない。まさにこれから、体外受精に本格的に取り組もうとしている、不妊治療まっただ中の方である。クリニックを変え、検査を終え、2023年1月の周期から採卵が始まる。
今回は、事実婚であるがゆえの状況も含めて、不妊治療を現在進行中の1人の女性の様子を、あえて女性のみの目線でお届けしたい。
※この記事の記載内容は個人の経験や記憶に基づいた意見であり、女性からだ情報局がその正確性を保証するものではありません。
※登場する人名はいずれも仮名です。また、年齢は取材当時のものです(2022年12月取材)。
仕事魔だった自分に「子ども」を意識させた姪っ子
(編集部)– 現在のパートナーと交際される前から、不妊治療について考える機会はありましたか?
高橋ノゾミさん
全く意識していなかったですね。もともと「いつか子どもを産みたい」っていう願望が全くないタイプの人間だったんです。仕事ばっかりしていたけど、生理痛も生理不順もありませんでした。
仕事が好きでモリモリ働いている身からすると、「子ども産む気が無い&生理で困らない」って“ラッキー!”ぐらいの感じなんです。今になって振り返ると恐ろしいですが。。。
(編集部)– そんな高橋さんが妊活を始められたのはなぜですか?
高橋ノゾミさん
2018年に今のパートナー(山田マサヒロさん:仮名)と付き合い始めたのと同じくらいのタイミングで、姪っ子が生まれたんです。これがもう、かわいくてかわいくて!
姪っ子は東京からは遠く離れたところに住んでいるので、そう頻繁に会える訳ではないのですが、彼女が1歳、2歳と成長するのを見て、初めて「子どもを産みたい」と強く思いました。まさか自分が「子どもを産みたい」と思う日が来るなんて全く思っていなかったです。そこでパートナーに産みたいことを伝えました。
(編集部)– そこからすぐに妊活を始められたんですか?
高橋ノゾミさん
いえ、パートナーと話し合って、すぐには始めなかったんです。
私はそのころ仕事がとても大切な時期で、子どもを産んでしまうとキャリアが中断されてしまうし、パートナーはバツイチで子どももいました。だから、出産するのは40歳過ぎてからくらいのタイミングにしようということになりました。
そのころには交際も1年以上経っていて、私も33歳になっていました。
卵子凍結の予定が、不妊治療へとステップアップ
(編集部)– でも実際は40歳を待たずに不妊治療を始められたんですね?
高橋ノゾミさん
「出産は40歳以降に先延ばし」ということで一度は納得したんです。でも、40歳だと年齢的に不妊になっちゃうかもしれないな、と思ったので、卵子凍結だけやっておくことにしたんです。
周りの独身女性の友人たちの間で、卵子凍結はけっこう話題になっていたんです。凍結するかどうか迷ってAMH検査を受けている友人もいました。
私も若いころは全く子どもが欲しいなんて思わなくて、姪っ子の成長を見て考えが180度変わりましたが、卵子凍結やAMHも年齢ならではの話題のような気がします。みんな歳とともに考え方や気持ちが変わるのかもしれないですね。
そんな中で、クリニックA(東京都港区)に卵子凍結の相談に行ったことが、結果的に不妊治療を開始するきっかけになっています。
(編集部)– その経緯について、詳しくお伺いできますか?
高橋ノゾミさん
卵子凍結に行ったクリニックAで、まず色々な検査を受けたんです。1つ1つ詳しくはわかりませんが、AMH検査も含まれていたと思います。その結果が全然良くありませんでした。
私はこれまで生理で悩んだことがなかったから、そんな結果は全く予期していなくて衝撃を受けたのを覚えています。これまで頭になかった「不妊」が現実味を帯びてきたのはこの頃だったかもしれません。
お医者さんの話を聞いたら、凍結するなら卵子(未受精卵)より胚(成長した受精卵)の方が確率が高いということだったので、急遽パートナーを引っ張り出してきて卵子じゃなくて胚凍結をしました。
それでも、「胚(受精卵)を戻す身体も、若い方がいいよ」と言われて、そのまま妊活に切り替えたんです。
結果の出ない2年間。クリニックが信頼できない
(編集部)– 胚凍結後の妊活(不妊治療)はどんなことをやりましたか?
高橋ノゾミさん
胚凍結をする過程で、子宮内膜にポリープが見つかったんです。都内の病院を紹介されて、まずはそのポリープの切除手術を受けました。
その後はタイミング法を3周期やって、体外受精に移りました。
私たちは人工授精はやりませんでした。タイミング法で妊娠しなかったので、もともと凍結していた胚(受精卵)を子宮移植したんです。
そのクリニックAは割と高刺激でたくさん採れることもあると聞きますが、私たちは3つだけ凍結できていて、そのうち1つを移植しましたが、妊娠できませんでした。
(編集部)– そのころまでにはどのくらいの時間や費用がかかっていましたか?
高橋ノゾミさん
途中にポリープの手術もあったので、卵子凍結しようとクリニックAに行ってからはトータルで3年くらい、妊活(タイミング法)の開始からは2年くらいが経過しています。
費用はポリープを除けば「胚凍結」「タイミング法3周期」「体外受精(移植)1周期」でトータル100〜150万円くらいです。でも、時間もお金もけっこう費やしたけど、このクリニックAでは「妊娠しそうにないな」と感じていて。。。
2022年の4月に保険適用されたのも知っていましたし、次は保険適用で体外受精をやりたいなと思って、残り2つの受精卵は廃棄してもらって、最初からやり直すことにしたんです。
クリニックをきちんと選択しないまま、失われた2年間
(編集部)– どうしてクリニックを変えることにしたんですか?
高橋ノゾミさん
私は卵子凍結に行ったら意外と「妊娠しにくい」ことがわかって、その流れの中で同じクリニックAで不妊治療までステップアップしたので、そもそも“クリニックをきちんと選んでない”んです。結果も出なかったし、信用できないなと思うこともたくさんあって、不妊治療をやるなら不妊治療の専門クリニックでないとダメだなと思いました。
最初のクリニックAは港区内なんですが、本当に“近さ”だけで選んだんです。それも私の自宅や職場じゃなくて、パートナーの家からの近さです。
彼は子どもがいるから、不妊治療に対するモチベーションがそこまで高くないんですよね。彼の行動範囲から遠いところには来てくれない。
だから、不妊治療クリニックの選択肢自体が少なくて「きちんと選んだ」とは到底言えない。そして不運なことに、そのクリニックAで続けていくのは限界だと感じていました。
(編集部)– 具体的にはどんな点が信用できないと感じられたのでしょうか?
高橋ノゾミさん
オフィスビルが多いエリアなので、リモートワーク用の席があったり、お菓子や飲み物がサービスされていたり、仕事の合間に通えるような工夫がしてあって、最初は良いなと思ったんです。でも、同じように仕事をしながら通われる方が多いからか、待合室は座るところが無いくらい待つんです。
「座れないくらい待つ」と言うと大人気のクリニックのように思えますが、とにかく1つ1つが遅くてめちゃくちゃ待たされるんです。検査の結果待ちなら仕方がないですが、その日の診療がすべて終わって、お会計で30分以上待たされることもありました。もちろん医療の質とは直結しないのかもしれませんが、1つ1つがちょっと不安になってしまって。
同じように、お医者さんどうしの連携が取れていないことも不安でした。
クリニックAは担当医制ではなかったのですが、私は毎回できる限り同じ先生に診てもらいたくて、曜日や時間ごとの担当医を見て予約を入れるようにしていたのですが、それでもタイミングの関係で別の先生に診察してもらう時があるんです。
そんなとき私のカルテを見た先生が「何でこんなやり方したんだろう。薬足りなかったね。」なんて言うこともあって。とても不安だったし、高いお金を払って治療を受けているのに、担当の先生からも臨時の先生からも、真剣に取り組んでくれている様子は伝わってきませんでした。
40歳以降での出産を一度は予定しながら、意外と妊娠しにくいことがわかり、不妊治療に取り組み始めた高橋さん。モチベーションが低くなかなか協力してくれない事実婚のパートナーと、どんどん信用できなくなっていくクリニックAの狭間で、何とか心機一転環境を変えようと思い立ちます。
高橋さんはその後の現在、どのように新しいクリニックを選び、不妊治療と向き合っているのか。後編へ続きます。
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