意外と多い子宮内膜症 日本人の5人に1人が罹患!?
子宮内膜症は、どんな病気なのでしょうか
子宮内膜症とは、子宮内膜に似た組織(子宮内膜様組織)が、本来子宮内膜があるべき子宮の内側以外にできてしまう病気です。(*1)
そもそも子宮の内側を覆う「子宮内膜」は受精卵が子宮に着床するためのクッションのような働きをしています。妊娠しなかった場合、子宮内膜は剥がれ落ちて、月経時に月経血としてとして排出されます。この子宮内膜様組織が、卵巣や卵管、骨盤を覆う腹膜など、子宮の内側以外の場所にできている状態を子宮内膜症といいます。
子宮内膜症では、子宮内膜様組織が生じた付近に出血や炎症、癒着(周囲の組織や臓器がくっついてしまうこと)がおき、強い月経痛や性交痛、慢性の骨盤痛、排便痛などを引き起こします。また不妊症や卵巣がんの原因になることもあります。
子宮内膜症には、どのくらいの人がかかっているのでしょうか
20~30代で発症することが多く、ピークは大体30~34歳です。(*1)
妊娠可能な年齢の女性のうち5人に1人が、子宮内膜症にかかっているともいわれています。非常によくある病気で、近年、子宮内膜症の患者さんは増えつつあります。
子宮内膜症と月経痛の関係
先に述べたように、子宮の内側を覆う「子宮内膜」は「子宮に到達した受精卵を受け止めるクッション」のような組織です。受精卵が着床しなかった場合、排卵日後の約2週間で子宮内膜ははがれて、出血とともに体外に排出されます。それが月経の時に出てくる月経血です。そして、また排卵日に向けて、子宮内では子宮内膜が厚く成長していきます。それが月経のサイクルです。
子宮内膜症が起きている場所でも、月経周期に合わせてその子宮内膜に似た組織が厚くなっていきます。つまり、子宮以外の場所で月経が起きているようなものですが、この組織は月経血のように体外に出ていくことがありません。そのためはがれた組織が刺激となり、炎症や癒着が起きて、痛みが発生します。
子宮内膜症が発生しやすい箇所
子宮内膜症が起きやすい箇所は、卵巣や卵管などの子宮の周囲や骨盤腹膜(子宮や卵管の外側を覆う膜)です。しかし、膀胱や直腸、ときには肺や皮膚などでも子宮内膜症が起こることがあります。また、子宮の筋肉の中にも同様な組織が生じることがあり、子宮腺筋症と呼ばれます。
子宮内膜症が進行すると発生する症状
子宮内膜症では色々な症状が起きますが、卵巣の子宮内膜症では、古い血液がたまって「卵巣嚢胞(のうほう)」(子宮内膜症性卵巣嚢胞)を引き起こします。たまった古い血液がチョコレートのようにみえることから「チョコレート嚢胞」とも呼ばれます。チョコレート嚢胞が破裂すると、非常に激しい腹痛が発生します。
また、チョコレート嚢胞では、卵巣がんになるリスクが高くなることが指摘されています。さらに、チョコレート嚢胞から発生する卵巣がんには「明細胞癌」という種類のがんがあり、抗がん剤が効きにくいとも指摘されています。
初潮後に、年齢を重ねるにつれて月経痛がひどくなったりする人は、子宮内膜症である可能性があります。そして、不妊症やがんを防ぐには子宮内膜症の早期発見が大切です。だからこそ、早めに婦人科を受診することが重要です。
子宮内膜症の初期症状とは?どうやって気づく?
子宮内膜症に気づく初期症状とは
不妊も子宮内膜症に気づく症状の一つですが、代表的な自覚症状は「痛み」です。子宮内膜症の患者さんのほとんどが、寝込んでしまったり、鎮痛剤を服用しても改善しなかったりするような、重い月経痛を抱えています。
その特徴は、トータルの月経の回数が多くなる=年齢を重ねるごとに、痛みが強くなっていくことです。年齢とともにだんだんと月経痛がつらくなっている場合は、子宮内膜症を疑った方がいいかもしれません。
また、月経時以外にも、腰や下腹部の痛み、排便や排尿時の痛み、性交痛などがあることも子宮内膜症のサインの一つです。こうした痛みは、病気の進行が影響しているともいわれています。月経の時に、お通じがいつもと違ったり、便や尿に血液が混じったりする場合も、子宮内膜症が起きている可能性があります。また、子宮内膜症は遺伝性の疾患ではないと考えられていますが、なりやすい体質が遺伝する可能性が指摘されています。母親や姉妹などに子宮内膜症の人がいる場合、自身も子宮内膜症になりやすい可能性があります。
子宮内膜症の場合、通常より月経痛がひどくなる理由
通常の月経よりも痛みが大きい理由は、子宮内膜症の部位が本来の部位以外にあり、刺激が強いこと、また、月経の際に子宮内膜から分泌される痛みの原因になる物質が、子宮内膜症が起きている場所からも分泌されることなどです。 子宮内膜症は、月経の期間や回数を重ねるごとに進行し、それにともなって痛みなどの症状も強くなります。痛みの発生具合や強さは人それぞれですが、日常生活に大きく影響する人もいます。
子宮内膜症は不妊の原因になる?知っておきたい原因と影響
子宮内膜症を発症する原因
子宮内膜症自体、実は原因がよくわかっていません。月経の時に体外に流れ出るはずの月経血の一部は、卵管や骨盤に逆流していることが知られています。これは9割以上の女性にみられる自然な現象ですが、子宮内膜症はこの逆流した経血が原因で発生するといわれています。この「月経逆流説」が子宮内膜症の原因の最も有力な仮説です。
なお、月経逆流説に関連して、月経の際にタンポンを使用すると、月経血の逆流が増え子宮内膜症になるのではないかという意見を見聞きすることがあります。しかし、タンポンは月経血を吸収するものですので、タンポンが原因で月経血が逆流することはありません。
また、昔と比べて女性が人生で経験する排卵や月経の回数が増えていることも、子宮内膜症の原因だと考えられています。(*2)
月経がはじまる時期が早くなったこと、妊娠回数が減っており、授乳期間も減っていること、閉経する年齢が上昇していることなどがその要因です。現在の女性は、約450回も排卵と月経を経験すると言われています。
このように月経の回数が多くなり、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌期間が長くなることが、子宮内膜症を引き起こしているという説もあります。エストロゲンは、子宮筋腫や乳がん、子宮がん(子宮内膜癌)などの女性特有の病気の発生にも影響しています。
子宮内膜症が不妊の原因になるのか
妊娠を希望する子宮内膜症患者さんのうち30~50%が不妊を抱えていると言われています。(*1) また、不妊症の患者さんの25~50パーセントが子宮内膜症をもっているようです。妊娠率についても、正常な女性が15~20%なのに対し、子宮内膜症患者では2~10%という調査結果もあります。(*3)
中には、子宮内膜症でも自覚症状は不妊だけで、痛みがないという人もいます。
子宮内膜症と不妊との関連は明らかですが、実は子宮内膜症が不妊になるメカニズムは、すべてが明らかにはなっていません。逆に、子宮内膜症だと必ず不妊症になるわけでもありません。
ただ、子宮内膜症によって骨盤内の臓器が癒着した結果、骨盤内の環境が変化して、排卵に影響したり、受精の場である卵管機能の低下などによって、妊娠率が低下したりすることはわかっています。
チョコレート嚢胞についても同様で、卵巣機能の低下と排卵の障害をもたらしています。このようなことが、子宮内膜症による不妊の原因だと考えられています。
子宮内膜症で妊娠した場合の影響
妊娠できても早期の流産や、早産や帝王切開での出産が多くなることが知られています。その原因も解明はされていません。
子宮内膜症の治療法と、完治までの期間
子宮内膜症を完治させることはできるのか
子宮内膜症を完全に治すことは難しいです。そのため、治療は子宮内膜症自体を治すよりも、痛みを緩和させることや、不妊症対策が主な目的になります。また閉経することで、子宮内膜症の症状が弱くなったり、なくなったりすることもあります。
子宮内膜症の治療方法
問診で子宮内膜症の疑いがあると判断されたら、内診(内診台という椅子に座った状態での診察)と超音波検査で確認します。さらにチョコレート嚢胞などでは、MRIなどの画像検査で確認することもあります。また、補助的に血液検査を行うこともあります。症状が進んでいるケースや不妊症などでは、腹腔鏡検査(へそのあたりにカメラを入れて、お腹の中の様子をみる検査)が必要になることもあります。
治療方法は、薬物治療と手術に大別できます。(*1、*4)いつ妊娠を希望するかという患者さんのライフプランや年齢、症状の種類や重症度、患部の場所などによっても治療方法は変わってきます。
薬物治療の場合
鎮痛剤の投与で月経痛は軽減しますが、子宮内膜症自体への治療効果はありません。漢方薬にも効果があるものがあります。避妊用のいわゆるピルと同様のホルモンを含んでいる低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は効果が高く、月経困難症に対して保険適用で処方することができます。そしてこの薬は、排卵を抑えるだけでなく、子宮内膜症を進行させないことも知られています。また、黄体ホルモン単独の製剤も痛みを減らしたり、子宮内膜症の進行を防いだりする効果があります。すぐに妊娠を望まない場合にはこれらの薬を使うことがお勧めです。
薬で痛みが改善されない場合、またチョコレート囊胞が大きくなっている場合などには、手術を行うことがあります。
手術の場合
子宮内膜症をおこしている組織を取り除く手術を行います。チョコレート囊胞が大きい場合は、排卵障害や卵巣機能の低下が起きるだけでなく、体外受精などの不妊治療の妨げになってしまいます。また、妊娠中にチョコレート嚢胞が破裂したり、子宮内膜症がお母さんと赤ちゃんの感染症のリスクとなったりしますから、これらを減らすということも、手術の目的です。一方で、チョコレート囊胞を取り除く手術によって、卵巣の機能が低下することがあります。
また、チョコレート嚢胞を持つ人における卵巣がんの発見率は、40歳ごろから増えていきます。そのためチョコレート嚢胞が10センチ以上ある場合で、40歳以上またはこれ以上の妊娠を望んでいない患者さんに対しては、卵巣と卵管ごと取り除く手術が考慮されます。
子宮内膜症が原因で不妊が疑われる場合の治療
不妊症の治療の場合は、漢方薬や鎮痛剤以外のホルモン剤を投与していると妊娠できません。従って、早期の妊娠を目指して、不妊治療を進めることになります。
手術を優先するのか、体外受精-胚移植などの生殖補助医療をトライするのかは患者さんの状態によって異なります。そのため、治療方針については担当医としっかり話しあうことが必要です。
子宮内膜症の治療で注意すべきこと
どの治療法を選択しても、月経がある限りは子宮内膜症が再発する可能性があります。これは、子宮内膜症が女性ホルモンの影響をうけるためです。そのため、閉経前に薬物治療を中止すれば、子宮内膜症が再発したり、悪化したりすることもありえます。たとえ手術をしたとしても、再発予防のためには、妊娠を希望する時期までホルモン療法を続けることが望ましいです。また、個人差も非常の大きな病気なので、自覚症状がなくても、定期的な検診を受けることが推奨されています。
子宮内膜症は閉経後に軽快することがほとんどですが、チョコレート嚢胞の場合は、放置すると閉経後でもがん化するという報告もあります。手術後もがんが発生してないか確認する必要があるため、経過を見ていく必要があります。
月経痛は、多くの女性が「毎月のことだから」「痛みを我慢できるし」「もうじき終わるから」と、つい放置をしてしまいがちです。しかし、月経痛は間違いなく体からのSOSです。
現代の女性は、ライフスタイルや発育状態の変化により、いつ誰が子宮内膜症になってもおかしくありません。子どもが欲しいと思ったその時に、遠回りをせざるを得なくなったりあきらめたりする悲しい事態に陥らないためにも、早めの受診で予防できるよう心がけたいものです。なによりも、毎月のQOLの維持や未来の自分の健康のために、自覚症状がなくても早期発見できるよう、まずは一度検査を受けてみてください。