日本人女性の約20人に1人に起こるといわれている、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS・たのうほうせいらんそうしょうこうぐん *1)。排卵が妨げられるため、一般的な不妊症の原因となっています。
今回は、多嚢胞性卵巣症候群になる原因や不妊への影響、治療法などを、東京歯科大学市川総合病院産婦人科准教授、福島県立医科大学特任教授の小川真里子先生に聞きました。
意外と多い「多嚢胞性卵巣症候群」日本人女性の20人に1人が罹患
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵巣の中で卵胞(卵子を包む体細胞)が育つのに時間がかかってしまい、排卵しにくくなる病気です。
女性の5〜10%程度に発症するといわれており、若い女性の排卵障害で比較的多くみられる疾患です。(*1)
多嚢胞性卵巣症候群になる原因
はっきりとした原因は明らかになってはいませんが、卵巣で男性ホルモンが通常より多く産生されることが、主な原因であると考えられています。
男性ホルモンの値が高い原因は、脳から出ている黄体形成ホルモン(LH)と血糖値を下げるインスリンというホルモンにあります。これらのホルモンが通常よりも強く卵巣に作用し、男性ホルモンが卵巣で多く産生されていることが原因と考えられます。
このため、多嚢胞性卵巣症候群の方は、月経中に血液検査でゴナトロピン(卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモン)を測ると、通常と異なり、黄体形成ホルモンが、卵胞刺激ホルモン(FSH)よりも高くなる特徴があります。また、血中の男性ホルモンの値もやや上昇する傾向があります。
多嚢胞性卵巣症候群の初期症状とは?どうやって気づく?
多嚢胞性卵巣症候群の初期症状
多嚢胞性卵巣症候群の人は、月経周期が35日以上である、または月経が不規則であるケースが多いです。さらに、月経が1回も来たことがない、原発性無月経のかたちをとることもあります。(*1,*2)
卵巣内の男性ホルモンが高くなることから、にきびが多い、毛深くなる、といった症状が出ることもあります。また、肥満を伴うこともあります。
多嚢胞性卵巣症候群の症状があった場合、どうすれば良い?
多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害は年齢とともに進み、月経周期はどんどん長くなっていく傾向にあります。
重症度は人によって異なり、自然妊娠をすることもありますが、どの方も排卵しにくい状態であることは確かです。
また、すぐの妊娠を希望していない方でも、子宮内膜が増殖し子宮内膜がんを発症するリスクがあるため、治療がのぞましいと考えられています。
気になる自覚症状がある方は早めの受診をおすすめします。
多嚢胞性卵巣症候群の場合、産婦人科でする検査
血液検査と卵巣の超音波検査を行います。
月経不順や無月経などの「月経異常」、超音波検査で卵巣内に卵胞がたくさん連なって見える「多嚢胞性卵巣」、そして「血中男性ホルモンが高値、または黄体形成ホルモンが高値で、卵胞刺激ホルモンが正常値である」。この3つの項目を満たした場合、多嚢胞性卵巣症候群であると診断されます。
多嚢胞は不妊の原因になる?知っておきたい原因と影響
多嚢胞性卵巣症候群は不妊の原因になるのでしょうか (*1,2,3)
卵巣内の卵胞の成長が妨げられ、排卵しにくい状態となるため、不妊の原因になります。
嚢胞(のうほう)とは、体内にできる袋状の病変のことで、内部には液状の内容物が入っています。多嚢胞性卵巣症候群になると、病変が生じた(嚢胞状に変化した)卵胞が、卵巣内にたくさんできます。嚢胞状に変化した卵胞は、成熟しにくい状態になっています。
また卵巣が腫れて厚くなると、卵巣表面の膜の部分が硬くなり、排卵障害が起こります。
排卵障害がある場合の不妊治療での治療
排卵障害により妊娠まで長い期間が必要となるため、多くの場合、排卵を誘発するような治療が必要になります。
多嚢胞性卵巣症候群の不妊以外のリスク
多嚢胞性卵巣症候群があると、妊娠中に病気にかかる(妊娠合併症)リスクにもつながります。
多嚢胞性卵巣症候群の場合、肥満やインスリン抵抗性、糖代謝異常などがあわせて起こることがあります。これらの症状によって、体内の血糖値が下がりにくくなっています。その結果、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、早産など、様々な妊娠合併症のリスクが上がることが知られています。
多嚢胞性卵巣症候群の治療法と、完治までの期間
多嚢胞性卵巣症候群の治療の流れ(*1,2)
妊娠希望の有無により治療の内容は異なりますが、いずれの場合も、肥満があればまずは減量や運動を行います。
妊娠を希望していない場合は、低用量ピル(経口避妊薬)や黄体ホルモンなどのホルモン剤を使います。これは、月経が無い状態で子宮内膜への女性ホルモンの刺激が続くと、子宮内膜がんが発生しやすくなるからです。そのため、低用量ピルや黄体ホルモンを使用して、定期的に月経が起こるようにします。
妊娠を希望している場合は、まず排卵誘発剤を内服し、内服薬が無効の場合には卵胞刺激ホルモン製剤を注射する治療を行います。
これらの治療で効果がみられなかった場合、腹腔鏡下卵巣開孔術という手術が検討されることもあります。この手術を行うと自然に排卵するようになったり、薬に対する反応性がよくなったりします。ただしその効果は半年~1年程にとどまり、またもとの状態に戻っていきます。
血液検査でインスリン抵抗性(体内の血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなっている状態)がある方には、糖尿病の薬であるメトフォルミンを使うことがあります。糖尿病の薬は血糖値を下げてインスリンの過剰な分泌を抑えるので、卵巣の男性ホルモンも抑えることができます。そのため、卵巣内のホルモン環境が改善されて排卵しやすくなると考えられています。(*4)
なお、排卵障害は年齢とともに強くなるため、多嚢胞性卵巣症候群の方には早めに体外受精をすすめるケースも多いです。
多嚢胞性卵巣症候群の完治までにかかる期間
多嚢胞性卵巣症候群はひとつの体質です。
完治を目指し治療を行うというよりは、年齢や妊娠の希望があるかどうかなど、自身の状況に応じて対処していく必要があります。
時間は少しかかるかもしれませんが、根気よく向き合い、適切な治療をしていくことが大切です。
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多嚢胞性卵巣症候群は排卵障害だけでなく、子宮内膜がんなどのリスクもはらんでいます。
多嚢胞性卵巣症候群の方の中で最も多い自覚症状は、月経不順です。
なかなか月経がこない、月経周期が長いなどの症状がある場合は、「いつものこと」と放置せずに、早めに産婦人科を受診しましょう。