多くの人が発症しているとされるチョコレート嚢胞。では、チョコレート嚢胞と診断された場合、どのような治療を受け、どのくらいの期間を経て完治に向かうのでしょうか。
今回は、チョコレート嚢胞の治療法と治療期間について、東京歯科大学市川総合病院産婦人科准教授、福島県立医科大学特任教授の小川真里子医師にお伺いしました。
チョコレート嚢胞の治療法
チョコレート嚢胞の治療には、「薬による治療」と「手術」の2種類があります。
治療①:薬による治療
薬による治療には、「痛みを抑える治療」と「病気の進行を抑える治療」の2つがあります。
痛みに対してはまず鎮痛剤(痛み止め)を使用しますが、効果が得られない時はいわゆる低用量ピルなどのホルモン療法を行います。日本では、子宮内膜症に伴う月経困難症に対して保険適用となっている製剤もあります。
また、子宮内膜症の進行を抑える黄体ホルモン剤や、女性ホルモンの分泌を抑えて病変を小さくするGnRHアゴニストおよびアンタゴニストなどを投与することもあります。
治療②:手術による治療
薬による治療が難しい場合や、妊娠を希望する場合には、手術で子宮内膜症の病変を取り除くこともあります。
妊娠を希望する方の場合には、通常はチョコレート嚢胞だけを取り出し、卵巣自体を残す手術(温存術)を行います。実際、チョコレート嚢胞を切除した後に妊娠率が上昇することが、研究より示唆されています。(*1)
悪性腫瘍(がん)が疑われる場合や高齢の場合、チョコレート嚢胞が大きい場合、臓器が強くくっつきあっている場合(高度の癒着)は、卵巣や子宮などを全て摘出することがあります。頻度は低いものの、チョコレート嚢腫はがん化する可能性があり、年齢とともにリスクは上昇します。出産を終えた方、40歳以上で嚢胞が4~6cm以上ある方の場合には、卵巣の摘出を考慮すべきであるといわれています。(*1、*2)
ただし、両側の卵巣を摘出すると、術後に更年期症状が出やすくなるだけでなく、将来的な骨粗鬆症などのリスクも上昇するので、手術の適応は慎重に検討されます。(*3)
チョコレート嚢胞:手術の妊娠率への影響は?
チョコレート嚢胞の手術が必要な方のうち、将来の妊娠を希望される方は、「手術で片方の卵巣を全摘出すると、妊娠率が半減してしまうのではないか」など、不安になったりすることもあるかもしれません。
手術で片方の卵巣を全摘出したとしても、妊娠確率が半減することはありませんので、ご安心ください。
毎月排卵する卵胞は、左右いずれかの卵巣からランダムに選ばれています。卵巣が1つになったとしても排卵の回数が減るわけではないので、妊娠できなくなることはありません。しかし、体外受精における妊娠率は低下する可能性が指摘されています。(*4)
ただ、チョコレート嚢胞の摘出手術は、卵巣にダメージを与える病気です。そのため、たとえば片方の卵巣を全摘出し、もう一方の卵巣からチョコレート嚢胞のみを摘出する手術を行った場合には、温存術により卵巣が残された状態であっても、卵巣機能が低下し妊娠が難しくなることがあります。
チョコレート嚢胞:完治にはどのくらいの期間がかかる?
子宮内膜症は再発しやすい病気のため、いつまでに完治すると断言することはできません。
チョコレート嚢胞だけを切除する温存術を選択した場合の再発率は34%ほどといわれています。(*5)また、将来的にがん化のリスクもあることから、長期にわたる経過観察が必要です。(*6)
再発しやすい病気ではありますが、手術後に薬による治療を行うことで、再発のリスクを低減することができます。
チョコレート嚢胞の大きな特徴である強い月経痛。「月経時にはお腹は痛くなるもの」という認識から我慢してしまい、病気になかなか気づかない方も少なくありません。
チョコレート嚢胞は、強い月経痛により日常生活に支障をきたすほか、不妊の原因にもなります。思い当たる自覚症状がある方は早めに産婦人科を受診しましょう。